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2023.06.28

よせてはかえすの三陸 産地ツアーレポート【前編】

わかめをはじめとする日本の海産物に新たな価値を生み出し、サステナブルな第一次産業のあり方を提案・実践する「よせてはかえす」

メンバーの1人で、水産業の未来をつくるフィッシャーマン・ジャパン代表でもある、わかめ漁師・阿部勝太さんが活動する三陸へ、産地ツアーを開催しました。

生産者さんのお話を直接聞くことで、海の仕事や食に関する課題を学んだり、何かアクションのきっかけになればと願ってのこちらの企画。総勢 19 人の参加者は、20 代から 50 代までと幅広く、ウェブデザイナーやフォトグラファー、経営者や企業の新規事業担当など、バックグラウンドもさまざま。

修学旅行のように賑やかに始まったツアーの様子を、よせてはかえすのメンバー・森原まやの視点で、前半と後半のレポートに分けてご紹介します!

震災がきっかけとなった、海と働き方のポジティブな変化

「たみこの海パック」代表・阿部民子さんのお話を聞きに
「たみこの海パック」代表・阿部民子さんのお話を聞く

まずは、震災後の漁業の取り組みについてお話を伺うため、南三陸町の阿部民子さんの元を訪れました。

震災前から南三陸で養殖業を家族で営んでいた民子さん。震災の影響で、地域の漁船のほとんどは失われ、養殖棚も壊滅的な影響を受けたそうです。不安を抱え、南三陸を離れることも考えたこともあったそう。それでも、全国から多くのボランティアが来てくれたこと、直接聞ける機会のなかった「美味しい!」という彼らの声を聞いて、南三陸ならではの美味しい海産物の魅力を改めて感じ、前を向けたとお話ししてくださいました。

南三陸の “美味しい” を届けたい

南三陸の海の幸を詰めた「たみこの海パック」

美味しい海の幸をみんなに届けて、笑顔になってもらいたい。そして、自分たちの力で、南三陸を復興させたい。

そんな答えに辿り着いた民子さんが始めたのが、「たみこの海パック」。乾物などをはじめとした、豊かな南三陸の海で育った海産物を小分けで使いやすいパッケージにして、販売を開始。地域の女性に、働く機会を提供したい、という想いも、この活動で叶えられていることの1つだそう。

一人一人が事業主である漁師は、それぞれが海の仕事に対して強いプライドがあるし、ライバル同士。牡蠣の養殖ひとつを取っても、やり方が違う。それまでは誰もが、質より量。生産量をとにかく上げるために、競争するように所狭しと養殖棚を増やしていったことで、密植状態になっていたとのこと。

津波によって海が洗われた後、改めて、地元の漁師みんなで「これからの南三陸の海にとって大事なものは何か」を3年間、問い続けたそう。次世代に繋げるには、過剰生産をやめて、海の環境そのものを良くしていかなければ、と。みんなが出した決断は、養殖棚の数を全体で 1/3 に減らすということ。そして、関わっていた漁師たちが、同じスタートラインに立つことから始めるということ。それまでの当たり前を真逆に変える、どんなに大きな決断だったことでしょうか・・

世界に認められた、日本初のサステナブルシーフード

南三陸・戸倉の海|photo by Yuichi Yokota

それから、新しいやり方で養殖を再スタートさせた結果、なんと震災前よりもサイズが大きく、身入りが良く美味しい高品質な牡蠣が短期間で取れるようになったというのです。密植状態では、充分な栄養が牡蠣1つ1つに行き渡らず、海の環境も悪化していたようです。

町のみんなが一丸となったこの取り組みによって育てられた牡蠣(南三陸戸倉っこかき)は、”次世代に持続可能な基準で、環境と社会への影響を最小限に抑えて養殖された水産物” として、国際的な認証である「ASC 国際認証」を日本で初めて取得。

世界で認められた、日本初のサステナブルシーフードが誕生したのです。

かつてはお互いがライバルだった漁師同士も、今では最近の採れ高の話をしたり、今後に向けて相談したりと、協力して助け合うようになったと民子さんがお話しされていたことも印象的でした。

過酷な仕事から、働きやすい仕事へ

民子さんの息子のかずやさん

養殖の再開に向けた、地元の漁師たちの3年間の話し合いの中では、働き方も見直したそうです。出荷量を多く出すためには、できるだけ多くの時間を働かなければならない。シーズン中は、夜中から働き詰めの漁師もいたし、家業を支えながら、家事や子育てもする女性にとっても過酷な働き方でした。それもあって、息子のかずやさんはご両親に「漁師を継いで欲しい」と言われたことはなかったそう。

新しいやり方では、みんなが同じスタートラインに立つことで、競争するように無理して働く必要がなくなりました。働く時間を決め、休みの日を設けることで、過酷な仕事から、働きやすい仕事へと転換していくことを目指しました。

もともと広告関係の会社員をしていた、民子さんの息子さん・かずやさんも、今では南三陸に戻り、漁師として活躍しています。

子供が起きる前に出かけ、寝た後に帰宅する。会社員として、そんな働き方をしていたかずやさんは、自分の生き方や働き方を見直し、自分が育った海に携わることで、今では子供と一緒にいる時間が圧倒的に増えたそう。かずやさん自身、小さい頃にお父さんやおじいちゃんの姿を見て、大変そうだしな… と思っていた漁師の仕事も、今ではかっこいいと思える、と、照れくさそうにおっしゃっていました。事実として、周りに若い同世代の漁師たちも増えてきているそうです。

捨てられる昆布に新しい価値を作る

漁船に乗って、昆布漁見学へ|photo by Yuichi Yokota

次は、よせてはかえすのメンバーであり、わかめ漁師の阿部勝太さんが活動する、石巻・十三浜へ。

勝太さんは、「カッコいい・稼げる・革新的」を活動理念に掲げた東北の若手漁師集団 フィッシャーマン・ジャパン の代表も務め、水産業が抱える課題や、漁業の魅力の発信、未来の漁師や漁業に携わる人の育成などに取り組んでいます。

ツアーでは、漁船に乗って、昆布漁見学へ。初めて見る昆布漁や、大きな昆布を引き上げるその姿に、ツアー参加のみんなも大興奮。漁師ってかっこいい!と心から思った瞬間でした。

フードロスは、もっと手前で起きている

三陸わかめの特徴は、豊かな栄養たっぷりの海水と荒波のおかげで、しっかりと肉厚で、やわらかく弾力があり、色味が美しいこと。(詳しくは、よせてはかえすの「わかめのあれこれ」でもご紹介しています)一方、穴が開いてしまったり、少しでも黄色かったりすると、それだけで市場価値が一気に下がってしまい、そもそも買い取ってもらえない。もちろん、味も、栄養素も変わりません。

ここ数年、世の中でフードロスの課題が叫ばれているが、加工品に関する議論がほとんどなのでは、と勝太さんは疑問を投げかけます。

確かに、私たちが実際に食べたり買ったりする機会の多い、スーパーやコンビニなどで廃棄される食品に関することは多く取り上げられますが、そもそもお店に運ばれる前の農作物や水産物について触れられる機会は少ないように感じます。台風などの自然災害の被害を受けた野菜や果物についてはニュースになることもありますが、きっとそれもほんの一部。直接目に見えない海の中で起こっている魚や海藻などに関しては、さらに知る機会がありません。

捨てられる昆布に新しい価値を

よせてはかえすのメンバーで、漁師の阿部勝太さん|photo by Yuichi Yokota

ただ、見た目が違うだけで、”今の世の中では” 市場価値がなくなってしまう海藻たちをどうするか?

市場で売れないので、廃棄せざるを得ないということ。販売前なので、「フードロスとしてカウントされない数字」として、大量に海に廃棄されていること。そんな事実に、衝撃を受けました。

例えば、穴の部分をカットするなどの加工を加えることで、多少の販売価値を生み出すことはできる。ただ、かかる人件費や工数を考慮すると、割に合わない。結果的に、廃棄せざるをえないという状況が生まれてしまう。

このように、本来は捨てられてしまう昆布やわかめなどの海産物に、いかに新しい価値を生み出すことができるか?ぜひみんなと考えていきたいテーマですし、よせてはかえすとしても、チャレンジしていきたい領域です。

*アイデアのある方、一緒に取り組みたい方、よせてはかえすまでぜひご連絡ください!

海の仕事と食のために、私たちができること

お出迎えしてくださった南三陸 ホテル観洋 女将の阿部憲子さん

南三陸の観光と産業を支えるホテル

三陸ツアーの宿泊先は、南三陸 ホテル観洋さん。

個人的に、#BuzzCamp というクリエイター向け企画で6年ほど前に行ってからすっかりファンになり、去年もよせてはかえすのメンバーで宿泊させていただいたホテル観洋さんもご紹介します。

養殖棚が美しく並ぶ志津川湾を目の前にした素晴らしいロケーションで、その絶景を眺めながら入れる温泉も、食事も美味しく、女将の阿部憲子さんや副支配人の尾崎さんをはじめとするスタッフのみなさんもとっても素敵なんです。

震災当時、ホテルも被害を受けたものの、残った客室や食料などを活用して、被災した地元の方達の受け入れやサポートなどを行い、ホテルが稼働することで、地元の産業も動き、活気が生まれるとみんなを励ましながら運営してこられた女将さん。コロナ禍で観光業界が大変だった時期もさらに乗り越えられ、この日は、大勢の宿泊客で賑わっていました。(ホテルに興味を持ってくださった方は、少し前のものですが、随筆家・塩谷舞さんのこちらの記事をぜひ読んでみてください)

さて、ホテルに帰ってからは、海に囲まれた会議室をお借りして、1日目の体験を振り返りながら、気づきや感じたことのシェアをしたり、これからやってみたいこと、取り組んでみたいことについてなど語り合いました。

ファシリテーションをするダンさん|photo by Yuichi Yokota

「対話の時間がとても良かった」「もっと話したかった」と事後アンケートでも参加者の方から好評だったこの振り返りのワークショップのデザインとファシリテーションは、参加者の1人であるダンさんこと、小田裕和さん(株式会社MIMIGURI)。

「よせてはかえすさんの企画なので、今回体験したことや感じたことを、どうこの土地やお話を聞いた方たちに返していくか、そんな視点でぜひ考えてみてください」

と私たちの社名にかけた素敵な問いかけをしてくれました。

私たちが、今すぐできること

圧巻の船盛りでいただいた南三陸のカツオ

三陸の産地を巡り、生産者さんのお話を直接聞くことで、海の仕事や食に関する課題を学び、参加者同士みんなで語り合ったり、何かのインスピレーションやアクションのきっかけになればと願って企画した本ツアー。

「ツアーをきっかけに、これから取り組んでみたいことは?」という投げかけに、参加した方達からは、

  • ・環境に配慮された海産物を選んで食べることでサポートしたい
  • ・生産者側の苦労に想いを馳せながら、美味しくいただく
  • ・もっと一次産業の生産者さんのことを知りたいし、みんなに知ってほしい

といった、消費者として私たちがすぐにできる、食材の選び方や買い方、意識に関するコメントが多くありました。

まるで大人の修学旅行のように賑やかだった宴会

こうやって、新しい視点を得ることで、小さくても何かが変わっていく。

地域の人と繋がることで、また行きたい場所・応援したい方が増えていく。

私たち、よせてはかえすは、そう信じています。

そんな風に、誰かの小さな気付きが繰り返されることや、みんなの輪が広がることで、何かの変化に繋がっていくはず。そんな営みが、これからも穏やかに続いていきますように。

よせてはかえす、波のように。

text & photos : Maya Morihara, main photos: Yuichi Yokota

*産地ツアー2日めのレポートは、後編に続きます。

*よせてはかえすの活動が気になった方、応援してくださる方、最新のイベント情報などを知りたい方は、Facebook グループ「よせてはかえすの仲間たち」にぜひご参加ください。招待制のため、リクエストをお送りください。

*よせてはかえすは、海産物をはじめとする日本の食文化を守るため、自然が生み出す美味しい食材を見つけ、作り手の魅力を最大限に引き出す商品をつくり、その価値を伝え、お届けしていきます。海産物の商品開発やOEM等のご相談も可能です。ぜひお問い合わせください。